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 20016年4月、フランス議会は「買春禁止法」を可決した。これは性的サービスに対価を支払った場合、3750ユーロ(約47万円)以下(初犯は1500ユーロ)の罰金が科せられるというものだが、この法律の成立によって、フランスのセックスワーカーの置かれている状況はさらに厳しくなるといわれている。
 日本における中国人女性の国際結婚、中国人の国際移動の研究者であり、パリの中国人セックスワーカーの支援にも携わるエレン・ルバイさんは、この法律の成立過程に詳しく、議会前で行われた抗議デモにも参加した。2016年7月14日、ルバイさんに「買春禁止法」成立の背景や妥当性、今後の課題についてお話を伺った。そして、セックスワークと移住と「女性の」労働を重ねて研究してきた社会学者の青山薫さんには、日本におけるセックスワーカーを取り巻く現状と課題についても解説していただいた。
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エレン・ルバイさん:

 フランスでは売春は合法です。法的なフレームワークについてお話します。新たな「買春禁止法」に関する5つのポイントです。
 まず1つ目のポイントは、この法律によって客引きの罪が廃止されたことです。
 2つ目は、この法律によって客側が起訴されることになりました。いかなる性的なサービスでも購入する行為は罰金の対象になります。
 3つ目は、売春を辞めるための支援プログラムを導入したことです。売春、斡旋、人身取引の被害者に対して、社会的、専門的なリハビリプログラムが提供されます。
 4つ目は、セックスワーカーが搾取に関して告訴する、あるいは法廷において証人になることを受け入れた場合、一時滞在許可が得られることになったことです。
 5つ目は、暴力事件において、被害者が性別を問わずセックスワーカーであった場合は、加害者の罪が重くなる理由になります。
 フランスの法律の枠組みにおいて新しい要素ではないのですが、重要なポイントとして、売買春の斡旋が不法になるということがあります。金銭の支払いを伴わなくても違法です。ここでは「斡旋」の定義が重要なポイントになります。例えば、インターネットや新聞等で公に宣伝をする行為は罰せられる対象です。また、セックスワークの場所を提供することも犯罪行為となります。フランスの多くのセックスワーカーは、ストリートあるいはインターネット上で仕事をしています。

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歴史的な背景

 法律成立までの約2年間、さまざまな議論がされましたが、特徴は1980~90年代に国際的になされていた議論の反復だったということです。
議論における1つ目の立場は、「売買春そのものが女性に対する暴力である」という考え方です。女性は「被害者」であり、抑圧から女性たちを救うという目的があります。
 2つ目の立場は、売買春には多様な現実があり、性別を問わず、それぞれが権利の主体とみなす考え方です。かれらの能力を高める、エンパワーメントが目的になります。
 この2つの対照的なアプローチは、国際的な条約や声明の文言に影響を与えるためにアドボカシーに取り組んできました。1つの事例として、1995年、北京女性会議(第4回世界女性会議)を挙げます。北京女性会議では、セックスワーカーのエンパワーメントという観点から行われる2つ目のアプローチがみられます。
 2つ目の事例ですが、2000年のパレルモ条約(国際組織犯罪防止条約)に関連しています。この条約のなかには、買春そのものを女性に対する暴力と考え、女性を被害者とみなすというアプローチがみられます。この条約では人身売買の定義というのは、とても広い内容です。フランスの新しい「買春禁止法」は、このパレルモ条約に大きく影響を受けています。

なにが問われているのか

 この法律が問うていたことは、売買春が法的に許容される行為であるのか、そして、売買春は特定の法的な枠組みが必要なものなのか、セックスワークの脱犯罪化、非犯罪化は可能なのだろうかということです。
 社会政策の観点からは、保護かスティグマ化か、という二項対立的なポイントが問われています。セックスワーカーを保護するという見地から、売買春の犯罪化は有効なのかという問いです。
 この法律を支持したのは社会党、共産党、新左翼、極左系の政党などでした。この法案を提出したのは社会党の副党首のモード・オリビエールという女性です。この法案の支持者には買春を廃絶しようという立場がいました。主にカトリック系のグループです。
 法改正に反対する立場だったのは小規模の政党である緑の党です。そして重要なのは、コミュニティを拠点としたNPO、NGOの多くが反対したことです。このようなコミュニティNPOの半数以上は、現在あるいは元セックスワーカーであった人たちがメンバーで、当事者団体として活動しているという特徴があります。そのほかにもセックスワーカーの労働組合も反対しました。当事者団体とは別の理由ですが、警察の組合や裁判官の組合も、この法律に反対しています。
 法改正の反対派で中心となるコミュニティグループの多くは1990年代~2000年代に設立されました。それはフランスのエイズ省(エイズに関連する公的な機関)が1989年に設置されて以降のことです。フランス南部に3つの主要なグループがありますが、うち2グループがパリにあり、そのうちの1つはトランスジェンダーの人たちのグループです。より新しいグループは、アドボカシーグループあるいは労組で、「STRASS」というグループが、今、もっとも活発に運動しています。
 また、セックスワーカーのグループを支援する団体もあります。こうした団体は全国各地にありますが、家族計画に関する活動をする団体は、内部でこの法律に対する立場に分裂がありました。
 国民議会での法案投票日の採決の日には、2つの異なる立場によるデモがありました。法律を支持する立場のデモと、法律に反対する立場のセックスワーカーたちによるデモです。反対のデモには中国人セックスワーカーのグループやトランスジェンダー/トランスセクシュアルの人たちのグループなどが参加しています。
 現社会党政権は、当初、この法律はフランスにおける男女平等の実現に重要な貢献をするだろうと位置づけていました。ちなみに社会党政権は、2年前に平等に関する法律として同性婚を認める法律を成立させています。

反対派の議論

 「買春禁止法」の成立に反対する立場からは、どのような議論をしてきたでしょうか。4つの論点を紹介します。
 1つ目は、セックスワーカーの多様性に関する認識がないことの指摘です。セックスワーカーの声が周縁化されたままだと主張しました。
 2つ目は、セックスワークそのものが暴力ではなく、その労働条件が暴力のより大きな要因となるということです。
 3つ目は、セックスワークの犯罪化は、結果として、セックスワーカーに常にネガティブな影響を与えるということです。セックスワークを犯罪化すると、セックスワーカーの労働条件が悪化してしまいます。警察の取り締まりを恐れて、交渉が必要な契約条件が悪化してしまうのです。セックスワーカーは不可視化され、孤立してしまいます。
 4つ目は、スティグマ化を悪化させるということです。この点については、またあとで説明します。
 また、フランスの政策の目的が明確になっていないという問題も指摘されています。セックスワーカーを保護したい、あるいはセックスワークをやめようとする人を助けたいという欲求は、移民を規制する政策的な目的と重なるところがあるという問題です。

中国人セックスワーカーの事例

 こうした議論を具体的にフランスの中国人セックスワーカーの事例から分析していきたいと思います。
 1つ目に紹介したセックスワーカーの声が周縁化されてしまうという問題についてですが、立法上の手続きのなかで、セックスワーカーが関わっているNGOあるいはその支援者たちは聴聞会に参加してきました。しかし、自分たちの声、自分たちの意見が考慮されていないという印象を立法府に対して持っています。
 パリにおける中国人セックスワーカーは政治家にとって非常に課題の多い事例でした。それは私たちのなかにある偏見、そして既存の理解と大きく異なるという理由からです。
 中国人セックスワーカーの平均年齢は43歳で、人身取引の被害者はいません。ほとんどが独立して働いています。2014年に中国人セックスワーカーたちは自分たちのコレクティブ(グループ)を形成しました。グループ名は「鉄のバラ」といいます。活動の目的は、メンバーの声を伝えていくことです。しかし、活動を通して周縁化やスティグマ化の克服には非常に多くの困難があります。地方の政治家、主に社会党や共産党の議員たちは、このグループとの面会すら拒んでいました。実際に支援していたのは緑の党だけです。
 なぜ政治家たちはセックスワーカーのグループと会うことを拒否しているのでしょうか。政治家たちは中国人セックスワーカーグループに対して非常に差別的な対応をしました。彼らは面会を拒否した理由として「中国人セックスワーカーは代表制に欠けるからだ」といいます。彼らは「中国人のセックスワーカーは非常に恵まれた地位にある」と主張しました。また、「中国人セックスワーカーたちは、ほかの貧しい女性たちのグループによって操られている」「中国人セックスワーカーはおそらく犯罪者である」「ほかの女性たちを搾取している」などといった大変ひどい差別的なことも言いました。このグループが行った最初のデモのときに掲げたプラカードには「私は犯罪者でもないし、犠牲者でもない」と書かれています。
 2番目の暴力というのはセックスワーカーの労働条件から生じるものという論点です。多くの国々と同様にフランスにおいてもセックスワーカーは暴力の対象になってきました。彼女たちが受ける暴力にはさまざまな種類があります。路上で侮辱されるという言葉の暴力や身体的な暴力、レイプもありますし、警察からの虐待もあります。ここは私が特に主張したい重要なことなのですが、人身取引というのは一般化されるものではありません。なぜここが重要なポイントなのかといえば、今回の新しい法律で、セックスワーカーは搾取され、人身取引の被害者であるということが前提となっているからです。中国人セックスワーカーは、非常に不安定な状況のなかで働いていることはありますが、ほとんどが独立した地位で仕事をしています。
 統計的な面から暴力の問題を紹介します。2011年のNGO「世界の医師たち」の調査結果では、55%が身体的暴力を受けたことがあり、38%がレイプの経験があります。23%が客から監禁されたことがあり、17%が殺人の脅迫を受けたことがあります。注目してほしいのは、74%が1度以上、警察に逮捕されたことがあると答えました。平均すると一人のセックスワーカーが1年に6回も逮捕されていることになります。極端な例では、1年に100回逮捕されたという事例もありました。これは非常に深刻なハラスメントです。
 こうした暴力は、スティグマ化と密接に関係があります。セックスワーカーに対するスティグマ化は、セックスワーカーに対する暴力は罰せられるものではない、暴力をふるってもよいという感覚が警官たちや地域の人たちに共有されてしまうのです。このような感覚が広まってしまうと、実際に暴力の被害に遭った女性たちが法に訴えることが難しくなるため大変心配されます。実際、被害に遭った女性たちの21%のみ被害を訴えることができていません。
 3つ目の論点ですが、セックスワーカーやその客の犯罪化、彼らに対する弾圧的、抑圧的な法律は、セックスワーカーの労働条件を悪化させます。そしてその結果、さらに深刻な暴力被害を生み、4つ目の論点であるスティグマをさらに強化することになるのです。セックスワーカーやその客の犯罪化は、セックスワーカーを、よりインフォーマルで孤立した状況に追い込みます。連帯的な支援を求めることも難しくなり、性感染症などのリスクも高まるのです。
 「買春禁止法」が議論される段階で、すでに中国人セックスワーカーへの影響が見られました。一つの影響は彼女たちは、街頭で仕事をしなくなり、インターネットを使うようになったことです。また、いろいろな町を回っていく就労形態に変化しました。そこでの大きな変化は、中国人セックスワーカーが独立して仕事をする形態ではなくて、仲介者を必要とする状況になったという点です。
暴力の被害も増加しているという問題もあります。犯罪化がスティグマを悪化させているからです。
 次は買春を離職するための支援プログラムについて話します。フランスに滞在する資格を持っていない外国人セックスワーカーは、滞在許可をもらうために離職プログラムに申請をします。この支援プログラムの条件は、トレーニングの期間中に、セックスワークを完全にやめなくてはいけないということです。ここで1つの議論が起きました。離職プログラムに申請したのは「よい女性たち」で、申請しないのは「悪い女性たち」だという区別によって、さらなるスティグマ化が起きてしまったということです。

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法律成立の本当の目的は?

 この法律を成立させる目的は何か、優先事項は何なのかということも議論されました。この法律で成し遂げたいことは、セックスワーカーを守ることなのか、それとも非正規の移民を取り締まることなのかということです。
 中国人セックスワーカーの事例が非常に興味深いのは、パリのいくつかの地域における警察の取り締まりの中心的なターゲットが中国人セックスワーカーだったということです。この理由は、中国人セックスワーカーたちはこれまでセックスワークがあまり行われていなかった地域で仕事をしているからでした。
 客引きをしているという理由による警察の取り締まりは1年前からありました。法律が制定されてからも警察の取り締まりは止んでいません。警察が取り締まりをする理由は、中国人セックスワーカーが滞在許可を持っていないからです。警察は、アジア人女性にだけ書類を見せるようにいいます。ここで明らかなのは、彼らの目的は「保護」ではなくて、「取り締まり」だということです。取り締まりが優先順位なので、写真を撮ったり、パスポートのコピーを破いたりなどという脅かしや侮辱的、差別的な行為による取り締まりが行われています。
 このような状況への対応として中国人セックスワーカーは、コレクティブとして、政策を変えるために近隣の地域の人たちとの対話をつくりだそうとしてきました。2015年6月には、中国人セックスワーカー・コレクティブはピクニックを行っています。象徴的な行為として、ベルビルという地域の街頭の掃除をしました。彼女たちにも、このエリアを綺麗にしたいという意思があることを示すためのアクションです。ベルビルの地域住民と会合も開いたことがあります。

おわりに

 結論ですが、1つは、セックスワーカーのグループと協力していくというのが重要だということです。セックスワーカーを支援するNGOである「世界の医療団」がやろうとしているのは、スティグマ化に伴う不安定化、高いリスク、暴力、搾取、警察対応など、新しい法律の影響を記録していくことです。「世界の医療団」は医師たちと中国人セックスワーカーたちと一緒にプログラムを行っています。もう1つは、セックスワーカーの離職支援プログラムが差別的なものではなく、またセックスワーカーに対する社会的なコントロールを強めるものにならないことを確実にすることです。

以上です。ありがとうございました。

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青山薫さん:

 エレンさんとお目にかかるのは初めてなのですが、共通点がすごく多くて感動を覚えているところです。 4点ほどに絞って私のコメントを述べさせていただきたいと思います。
 1点目は、フランスの独特な状況について。2点目は、フランスの状況がいかに世界的に普遍的なことかということ。3点目は、日本への影響をどのように見ていくか。これはアジア女性資料センターからの宿題でもあります。4点目は、アジア女性資料センターがせっかく主催してくださったということなので、私からのフェミニストへの提言をさせていただきたいと思います。 
 まず、1点目、フランス独特の状況についてですが、私は、今回の買春の犯罪化の立法を、上院が3回も否決しているということ、そして2回目に下院で可決されたときの人数に注目します。この議論は、フランスの国会で2年間行われてきました。上院で議論し、下院で否決され、また上院に戻り否決され、今回下院で可決されました。この議論がいかに難しかったかということです。
 最終的に可決されたときの議員の投票者数が非常に少なかったのはショックでした。下院議員は、日本の衆議院と同じで選挙で選ばれるわけですが、577人中たった100人ほどの人たちが投票した結果、可決されてしまったのです。賛成は62でした。非常に非民主的と言わざるを得ない部分があると思います。
 なぜこういうことになってしまったのでしょうか。私が聞いたのは、どちらの立場に立っても難しかった。賛成にしても、反対にしても有権者、支持者が嫌がると議会を欠席してしまった議員がとても多かったと聞いています。
 1つ独特の状況として、賛成派が説得力を持っていた声としては、売る方については非犯罪化していくということです。今までは犯罪であり、罰則があったのに、それをなくしているのですね。かわりに客の法を犯罪化したということで、賛成票を投じた人たちにとっては、非常に強力な魅力でした。「女性のためになる」という議論ができたわけです。ここは、ほかの国に比べて独特なところかと思います。

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「北欧モデル」

 ご存じの方も多いと思いますが、客の犯罪化は、いわゆる「北欧モデル」といわれるものです。そこで行われてきた議論、そしてすでにいろいろな調査が出ていますが、結果はほとんど重なっています。その議論がフランスに影響し、フランスを含むヨーロッパ議会の議論にもなっていきました。ヨーロッパは北欧モデルで買春に対処していこうと議決をしています。
 影響が大きい共通点についてですが、買春の罰則化は、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドで行われています。これにはフェミニストたちもさまざまに関わって努力しました。女性に対していい立法をしたという考え方が一方では強いわけです。
 他方、罰則化後のノルウェーでの調査を見ても、やはり以前よりもセックスワークがアンダーグラウンド化しています。そして、多様性を認めていない。自己決定でその仕事をしている人たちにとっては、マイナスでしかない状況になっているのです。自分が犯罪でないといわれも、お客さんが犯罪だったら、商売にならないわけですから。
 リスクを一言でいうと、お客の危険度が相対的に高くなるということです。今までは合法だったので、いわゆる普通の人が客として来ていました。しかし、犯罪化され、客自身が犯罪になる可能性が出てからは、「犯罪でもいいからやりたい」という客の層が必然的に増えます。このリスクは大きいです。まず交渉の時間が少なくなります。捕まえられたら困るから客は短時間の交渉をしたがり、そもそも危ない人の母数が増えてしまったなかで、セックスワーカーは危険な客を見極めなければならないのです。非常に危険だということがわかります。このような調査レポートが、ノルウェーやスウェーデンでも出ました。しかし、このことは立法した人たちはほとんど語りません。研究者や当事者団体が語っているのが、現在の主な状況です。

日本への影響

 日本への影響についてですが、特に外国人の移住の取り締まりとの関係が大きいと思います。日本では2004~2005年、移住の取り締まりと平行して性産業への取り締まりが厳しくなりました。きっかけはアメリカによる人身取引報告書です。その報告書で日本が要注意リストに入れられてしまったために日本政府は慌てて人身取引の行動対策を出しました。それと平行して、不法滞在移民の取り締まりを厳しくするようになったのです。これにより性産業全体のアングラ化、スティグマ化、条件の悪化してしまいました。どこも同じようですが、日本もいわゆる「不法移民」の取り締まりを進めるなかで、性産業が特にターゲットになっています。日本でも北欧モデルでやろうという意見もすでに出てきている状況です。ところが、そういう動きを知っているのはすごく限られた人たちだけです。当事者の声を届ける機会もないまま進められてしまっては非常にまずいと思います。フランスでも2年かかったし、議決にもとても難しいということがありました。しかし日本では、議論自体がなされないまま、一部の人たちのみでただ進んでいるのではないかということを、私は一番危惧しています。

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フェミニズムの課題

 4点目ですが、この問題は非常に難しいのです。セックスワークは約150年、ずっと議論が続いている分野です。フェミニストのなかでも大きな対立があります。当事者のなかでも割れています。非常に難しい問題ではありますが、私がやはり強調したいのは、だれも知らないところで議論、ロビーイングあるいは政策決定を進めてはならないだろうということです。当事者の声あるいは自己決定つまり「私が決めるのだ」ということがフェミニストにとっては非常に大事だったはずだからです。フェミニストのスタンスとして、大きな影響がある法律をつくるときに、当事者や当事者近い支援者や研究者の話を聞かないのは大変な問題ではないでしょうか。
 私はフェミニズムの大事な原点だったはずの、人と人との不平等を解消しよう、女の中の分断を解消しようという視点がないがしろにされているのではないかと感じています。そこを取り戻したいのです。
 セックスワーカーの人たちが、どのようにして、奴隷状態(Situation of Slavery)に陥っていくか、つまり人身取引だったらものすごい搾取に遭って、給料も与えられない、閉じ込められてしまう、パスポートも取り上げられてしまうという状況に陥っていくかという条件を考えました。私の調査の結果、大きな2つの要素に、労働条件(Working Condition)と、人とのネットワーク(Access to Social resources)があることがわかります。
 労働条件が悪化すればするほど、アングラ化して、業界以外の人たちとのつながりが切れてしまいます。そして奴隷に近い、非常な搾取状況に陥りやすくなるということです。状況が悪化すると、無力感や、怒り、憎しみ、後悔などが、自分のなかにわいてきてしまうことがあります。だから、労働条件とネットワークが悪化するということは、スティグマ化だけではなくて、本人の内面でも悪いことが起こると私は考えていました。
 エレンさんの発表にも、そのとおりの結果があり得ると、中国人セックスワーカーの議論をしていただいたのですが、これを防がなければいけないと思います。もし性産業で働いている人の安全を守りたいのならば、労働条件をよくすること、それから彼ら/彼女らの横のつながり、他とのつながりを切れないようにすることが必要なのだと思います。
 以上です。

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【『女たちの21世紀』86号掲載記事より特別にウェブ公開しています】

  「新翼賛体制」にどう立ち向かうか  竹信三恵子 

竹信さん

はじめに

 どこかへ行こうとすれば、いまどこにいるのかを知らなければならない。だが、私たちはいま、自分たちがどこにいるのかさえわからなくなっている。報道管制が静かに進み、社会の底流で何が起きているのかさっぱり見えなくなった。そんななかで美しげな政治スローガンばかりが飛び交い、同時に、そのスローガンを裏切る政策が裏で推進され続けている。代表例が女性政策だ。「女性が輝く社会」が日々叫ばれる一方で、保育や介護などの公的サービス、一日の労働時間規制など、女性活躍の大前提ともいえる基盤は大幅に崩されつつある。にもかかわらず、「輝く」の連呼に幻惑され、与党に吸い寄せられていく女性は目立つ。なんとなく、みんな与党。そんな異論が言えない社会に、私たちは雪崩を打って転がり込みつつあるのではないのか。こうした「新翼賛体制」に歯止めをかけるために私たちは何ができるのか。真剣に自問すべき時が来ている。

新翼賛体制の標的としての女性

 ヨクサンってなんのこと、と首をかしげる人は多いかもしれない。第二次大戦のさなか、長期化する日中戦争を国家総力戦体制によって乗り越えようと、当時の近衛文麿首相を中心に新体制運動が展開された。政府対軍部、といった支配層の内部対立の解消や、国民の自発的な戦争協力へ向け、1940年、首相をトップとする大政翼賛会が結成された。「戦争に勝つ」を理由にした政府への無批判な一体化が健全な異論を封じていった。そんな状況を「翼賛体制」と呼ぶ。いま、周囲を見渡すと、こうした翼賛体制が、新しい形で生まれているように思える。
 2016年2~3月、スイス・ジュネーブで、国連女性差別撤廃委員会による日本の女性差別撤廃条約実施状況が審査された。「従軍慰安婦」問題が大きなテーマのひとつとなったこの委員会の場に、今回は、拉致事件に抗議するバッジをつけた男性や、「なでしこの会」と名乗って「慰安婦」問題を批判する女性グループのメンバーが多数、出没した。彼ら彼女らは、日本から参加したNGOメンバーを無断で撮影し、ネット上で「左翼」「小汚いNGO」などの誹謗メッセージとともに公開している。同委員会に先立ち、政府が2月上旬に東京で開いた説明会には、右派とみられる男女が多数参加し、会場からの質問をほぼ独占する形で「従軍慰安婦」問題攻撃を繰り広げた。男女平等を求める場が、これを批判する場にひっくり返ったような瞬間だった。さらに、3月中旬からニューヨークの国連本部で開かれた国連女性の地位委員会(CSW)では、「慰安婦」問題についての日本の加害責任を否定する団体が「女性NGO」としてイベントを開催した。
 この5月に開かれたセクシュアルマイノリティの集会「東京レインボープライド」では、夫婦別姓などに否定的な考え方を繰り返し表明してきた自民党の稲田朋美政調会長が登壇してあいさつした。稲田氏は同党内でLGBT問題への取り組みを推進するという。
 一連の動きは、何が狙いなのか。
 ひとつは、野党の掲げてきた政策スローガンを奪う「抱きつき作戦」で、次の参院選の争点ぼかしを図ること。また、現政権の柱のひとつである新自由主義的経済人たちにとって、女性やLGBTは消費者として、労働力として、市場の行き詰まりの打開に役立つ潜在的資源だ。この資源を政権の側につけて、徹底利用を図ること。
 そして最後が、改憲に必要な多数を取るために、幅広い市民社会の抱き込みが始まっているということだ。安倍政権は、女性の支持率が一貫して男性を下回ってきた。改憲への道を整えるには、有権者の半分を占める女性層の取り込みは必須だ。そのためには男女平等に批判的なメンバーを女性運動の場に送り込むことで、その分断を図っていく必要がある。
 多くの女性団体や市民団体は改憲に批判的な立場を取ってきた。これらのグループが目指す人権や平等、生活の向上を実現するには、人間を消耗品として使い捨てる戦争を避けることが不可欠だ。とすれば、平和憲法を守ることなしに目的は達成できない。こうした敗戦の教訓が薄れてきたいま、「憲法などという一銭にもならないもの」にこだわるのをやめ、政府に協力すれば、各団体の掲げる目先の個別課題は実現させるという取り引きを持ち込めば、乗る人々も出てくる。こうして、社会運動を改憲反対から引き剥がしていく作業がひそかに進行していると考えれば、わかりやすい。

「女性活躍」はおいしい

  「女性が輝く社会」の名の下に進められている女性活躍政策は、これらの3つの狙いに適合している。まず、男女平等の実現は野党の政策と考えられてきたので、これを標榜することは「抱きつき作戦」として有効だ。また、次の潜在的資源としての女性利用の徹底にもかなっている。
 日本は2012年、中国に抜かれてGDP世界3位に転落した。安倍政権は「アジアで一番」でなくなった喪失感を「強い日本を取り戻す」のスローガンで穴埋めしようとする。そのために、女性の動員は欠かせない。少子化による労働力不足の中での低賃金労働力として、家庭内で育児や介護を引き受ける無償労働の担い手として、女性ニーズという新しい消費の柱として、最近では末端自衛官として、あますところなく女性を利用することが、国力の増強には大きな力になるからだ。
 3つ目の改憲反対からの引き剥がし策としても、これまで無視されがちだった女性に焦点を当てることで女性たちの承認欲求を満たし、遠くの憲法より現実の女性の地位向上、という層を生み出すことができる。
 第二次安倍政権の個々の女性政策を追っていくと、これらの構造が浮かび上がってくる。
 高年齢出産への不安をあおって早期出産を迫るものとして批判を浴びた「生いのち命と女性の手帳」(仮称)や、「希望出生率1・8%」の目標設定は、「強い国家」のための人的資源の増強へ向けた女性の動員策だった。だが、これには、「産めないのは若い世代の低賃金のせい」「保育所が足りない」「長時間労働をどうしてくれる」といった女性たちからの批判が盛り上がった。次に飛び出したのが「待機児童の解消」へ向けた保育園増設策だった。これは歓迎された。だが、施設の増加に見合う保育士が集まらないという新しい問題が起きた。保育士の待遇が低すぎて、資格を持っていても働きに出てこないからだ。とはいえ軍事費の増加や法人税減税などの中で、保育士の待遇改善には容易に公的資金を回せない。打開のため、20時間程度の研修による促成栽培の保育支援員制度が設けられた。また、2016年度から、外国人家事労働者を特区に導入してベビーシッターなどの形で在宅保育にあたらせる策も打ち出された。これらの低賃金労働によって、働く女性たちが自力でサービスを購入し、人材ビジネスなどの企業のビジネスチャンスを増やすことでGDPを引き上げ、社会保障費も抑え込む構想だ。
 介護報酬も引き下げられたが、ここにも低賃金の外国人実習生を充てる策が打ち出された。
 すでに女性政策の外側では、「高度プロフェッショナル人材制度」が国会に提案されている。「高年収で専門的」な働き手を労働基準法の1日8時間労働規制から外す政策だ。適用基準を引き下げていけば、将来的には多くの女性が8時間労働の適用外となり、「柔軟に」働かせることができる。こうした層には、外国人家事労働者のサービスを自力で購入させることで公的保育にかける税金を節約できる。一方、2015年には労働者派遣法が改定され、不安定な派遣労働者が固定化されることになった。派遣女性は、出産すれば契約を解除して派遣会社に戻せば、産休・育休についての会社負担は避けることができる。
 社会保障も企業負担も抑えて、自己責任で子どもを育てつつ働く女性労働者が手に入り、女性の承認欲求が満たされて政権の支持に回ってくれれば、まさに、フリーライドの女性動員となる。
 その仕上げが、マスメディアによる情報操作だ。問題点の報道を抑えて「女性活躍」を連呼させれば、女性はすでに活躍しているかのような錯覚が社会に生まれるからだ。NHKの会長人事や、報道番組の有力キャスターの降板をはじめとするメディアの抑え込みが、ここで威力を発揮する。マスメディアだけではない。メディア研究者の桂敬一氏は、自民党が2013年に「Truth Team」(T2)女たちの21世紀 No.86  2016 6月 8という組織を設置し、ネット上で自民候補の応援をすると同時に自民党とその候補に対するネット内の書き込みを監視・分析を行い、誹謗中傷を発見したら削除要請や法的手段を取ることを始めている、と述べる(「月刊マスコミ市民」、2016年5月号)。ネット言論の監視強化だ。

等身大の私たちを確認する窓を

 一連の政策の背景にある安倍首相の究極の狙いは、祖父の元首相岸信介氏を踏襲した国家主義の呼び戻しだともいわれる。2012年に自民党が発表した改憲草案は、こうした世界観に裏打ちされている。たとえば、家庭内の男女の平等を規定した憲法24条は、改憲草案では「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」とされている。つまり、個人ではなく家族を、守るべき単位として規定し、「助け合わなければならない」との義務規定を書き込むことで、女性の家族への無償の奉仕をさらに強める姿勢だ。
 「主権在民」から「民を国家に奉仕させるシステム」への再転換によって戦争できる国へ復帰を目指すことは、第二次大戦後の米国を中心とした世界秩序や、基本的人権、平和主義などを柱とする国際社会の普遍的価値から離脱し、米国との衝突を招くとの懸念も出ている。活動家の武藤一羊氏は、これは米国からの自立による国家主義の復活ではなく、国家主義の復活を認めてもらうために米国への一層の忠誠心、軍事一体化、経済的譲歩という卑屈な大盤振る舞いを差し出すというねじれた接合だと指摘する(『戦後レジームと憲法平和主義~〈帝国継承〉の柱に斧を』2016、れんが書房新社)。内輪だけで「遅れた隣国を近代化したアジアに冠たる強い先進国」をはやして盛り上がり、外には「米国の先兵になりますからよろしく」と、すり寄る姿勢だ。そんな内向きの妄想を維持するには、海外報道や事実報道を遮断するしかない。いま進んでいるメディア規制は、こうした内輪だけの盛り上がりの維持のためとも見ることができる。
 だからこそ、私たちはいま、世界の中、アジアの中での等身大の自分自身を確認する窓を確保しなければならない。これからやってくる外国人家事労働者・介護実習生を、サービスを提供するだけの都合のいい記号ではなく、対等な生身の人間として直視し、どのように向き合うのかを考えていかなければならない。「従軍慰安婦」と呼ばれた女性たちの存在をなかったことにすることでプライドを取り返すのでなく、彼女たちを通じて、私たちを含む女性全般を性の提供者として国家に奉仕させるからくりを暴き、押し返す試みを強めなくてはならない。
 国境や貧富を越えた情報交流によって、私たちは自らを覆う目隠しを打ち砕き、窓をつくることができる。この窓を通じて、自分たちがいまどこにいるのかを確認してこそ、私たちは歩き出す方向を定めることができる。今回の参院選は、新翼賛体制を防ぐための正念場だ。まずはそこへ向かって歩き出すため、アジア女性資料センターも、ささやかな窓のひとつになりたい。

たけのぶ・みえこ/アジア女性資料センター代表理事、和光大学教員

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【『女たちの21世紀』86号掲載 特別インタビュー】

 「安保関連法に反対するママの会(以下、ママの会)」をたった一人で立ち上げた西郷さんは、現在、2、5、8歳の子ども3人を育てている。「だれの子どももころさせない」というスローガンは全国に広がり、いまでは47都道府県でママの会が立ち上がった。大学の性暴力事件をきっかけにフェミニズムを学んだという西郷さんは「戸籍を分けるという離婚を経験して家族のかたちは変化したけれど、私がこの子どもたちのママであることは変わらなかった」と話す。夏の選挙を目前に、仕事と育児をしながら社会活動にもパワフルに挑戦する西郷さんにインタビューをした。

【国内ニュース】西郷南海子さん1
インタビューは京都大学近くのカフェにて

日常の悔しさや、モヤモヤを 込められる言葉としての「ママ」

 2015年7月4日、「ママの会」は、安全保障関連法案がいつ強行採決されるかわからないという緊迫した状況のなかで立ち上げ ました。その日は土曜日で、子どもたちが午後のお昼寝をしていたのを覚えています。
 最初から強行採決されることが決まっているなら「審議」なんて茶番で、私たちがいる意味がないと強く感じていました。そこで、まずは1人でも声を上げれば、他にもこの状況をおかしいと共感してくれる人はいるだろうと信じて会を立ち上げたんです。
 会の名前に「ママ」を入れた理由は2つあります。1つ目は、私にとって「ママ」は一人称だったということ。子どもたちは、私の鼓膜が破れるんじゃないかという大声で、1日に何十回、何百回と「ママ!」「ママ!」「ママ!」と私を呼ぶんです。そして、私も子どもに対して「ママは片づけてと言ったでしょう」というように、自分自身を「ママ」と呼びます。私にとってすごく身近な一人称が 「ママ」なんです。
 もう1つの理由は、「ママ」とは一種の職種だと思っています。賃金は支払われないけれど、ほぼ24 時間、働いているわけです。そんな生活のなかの悔しさやモヤモヤを込められる言葉が「ママ」でした。
 ママの会は「だれの子どももころさせない」という合言葉に共感さえしてもらえたら、自由に名乗っていい、としています。誰かの許可は必要ありません。仕事、子育て、家事があっての活動なので、組織として運営していくのは大変です。これまで自然発生的に増えてきました。私もどこにあるのかすべてを把握していないくらいです。

「だれの子どももころさせない」

 会を立ち上げた直後の2015年7月26日に「渋谷ジャック」という街宣とデモをやりました。私が思い立って、インターネットで呼びかけたら、すぐにたくさんの仲間が集まったのです。準備のためのチャットで、合言葉を決めようという話になりました。いくつか案が出てきましたが、「だれの子どももころさせない」を見たときに「これしかない!」と思ったんです。
 このスローガンは「だれの」という部分が重要だと思っています。 これが入っていないと意味がないのですね。「自分の子どもを守ろう」が「自分の国を守ろう」になり、「じゃあ、核武装だ!」というように、「子ども」だけでは簡単におか しなところに飛んでいってしまうかも知れません。また、「だれの子ども」とは、小さな子どもたちだけを指しているわけではなく、だれかの子どもである大人も含まれます。 戦場に送り出されていく兵士もだ れかの子どもです。そういう意味で「だれの」は欠かせないキーワー ドとなっています。
 
SNSを活用

 ママの会ではSNSが大事な活動ツールとなっています。食事の支度をしながら短くやり取りをしたり、子どもを抱っこしながらニュースをチェックしたり、片手で繋がれることが重要です。よく「授乳中にスマホをやるな」とか「子どもの目を見て授乳しましょう」と言われたりしますが、「おっぱいやっているときぐらい息抜きさせてよ」 「外とも繋がっていたい」と反論し たくなります(笑)。
 活動はあえてSNS以外には広げないようにしています。会報をつくったり、事務所を置くとなったらとても大変です。子どもを育てながらできる範囲で活動していくために、最初からやらないことを決めておくのは大事だと思っています。そのなかで言いたいことはしっかり言うという形で活動していきたいんです。

【国内ニュース】西郷南海子さん2
「渋谷ジャック」のデモで戦争法案の廃案を 訴える西郷さんとママの会メンバー


「男の持ち物」という意識

 インターネットではママの会に対する誹謗中傷があるのは知っていますが、見ないようにしています。私自身、以前にまとめサイトを作られたことがありました。「子連れでデモをやるのは虐待だ」と書かれていて、あまりにもひどいのでサイト運営側に削除を求めたのですが、削除するには私の身分証明書等を送る必要があるとわかりました。この対応にはとても驚きました。書いた人は好き勝手に匿名で書けるのに、書かれた人は削除のために本人であることを証明しなければならないなんて、おかしいと思います。誹謗中傷を書かれた人ではなく、書いている人が顔を 出すべきです。結局、そのまとめサイトは削除されませんでした。
 ママの会へのバッシングは「母親としてどうなんだ」というものが多く、性的な嫌がらせはほとんどありません。それに比べてSEALDsの女性メンバーに対する嫌がらせはひどいですね。彼女たちに対する性的な嫌がらせが、ママの会に来ない理由は、「ママは他の男の持ち物」という意識があるからではないでしょうか。子どものいる女性には「パパ」がいるというイメージですね。「渋谷ジャック」 後に「頭にウジが湧いている」とか 「旦那は何をしているんだ」といった発言をした著名人の方々がいました。ママは性的な存在ではなく、パパが管理する必要があるもの、という意識が見えます。
 ママの会のフェイスブックページには、投稿をすると秒速で攻撃的なコメントを書き込んでくる 「常駐」の人たちがいます。「暇だな」と思うと同時に、そういう人が私のことをどこで見ているかわからないと思うと怖くもなります。匿名で誹謗中傷をまき散らす行為は不公平です。女性たちへのバッシングから、この社会の歪みがよくわかります。

常に監視されるママたち

 いまの日本のママたちは、いろんなところから監視されていると 感じます。たとえば、子どもの虐待防止キャンペーンなどでは「虐待だと思ったらすぐ通報を」といった呼びかけがされるのですが、 私にはあの呼びかけが「子どもを泣かせたら通報するぞ」という母親に対する脅しのように見えてしまうことがあるのです。本当に困っている人を助けようとしている とは感じられません。実際、子どもが泣いていたら、近所の人に児童相談所へ通報されたママ友がいたのです。子どもがたくさんいる人なので、どうしても声が大きくなってしまうということでした。
 「保育園落ちた日本死ね!!!」 ブログが話題になったとき、国会議員へ保育園に関わる政策について署名を提出した女性たちがいました。このことが話題になると、「きれいに化粧をして、高級な抱 っこ紐を使っている母親たちが、 本気で働きたいわけがない」といったバッシングがあったのです。 さらに彼女たちが持っていた赤ちゃん用タオルについて「かわいい 柄のタオルを使っている人は、遊んでいる人。そんな人に子どもを 保育園に入れる資格はない」とまで書かれていました。もし彼女たちが化粧をせずに地味な装いで行ったとすれば、今度は「こいつら 女を捨てている」と書かれるだろうと思います。
 すべてを見られ、ジャッジされるんです。人を叩きたくて仕方がない人たちがたくさんいるという ことだと思います。

世の中を変える力があると 伝えること

 私はいま、低投票率をどうにか したいと思っています。
 先日、京都3区の衆議院補欠選 挙が行われましたが、投票率は3 割でした。有権者の3割とは人口の3割ではありません。投票権のない人はたくさんいます。人口からみると、投票に行く人は圧倒的なマイノリティになっているわけです。ここまで投票率が低くなってしまうと「選挙に行こう」という呼びかけは何も意味していないのではないかという気がしてきます。
 政治がワイドショーでしかなくなっている現在、選挙に労力を割くのは馬鹿げていると思っている人は多くいます。投票が締め切られた瞬間に当選確実を伝えるニュース速報が出ますが、私の一票はまだカウントされていないのに「確実」と出てしまう。これでは、行っても行かなくても同じだって感じてしまいますよね。一票なんて軽いんだといわれているようです。
 以前、ハタチになって選挙権を渡されてもどうしていいのかわか らないと話してくれた友人がいました。彼が、子どもの頃から「君たちには世の中を変える力がある」 と言われ続けていれば選挙に行こうと思うかも知れないけれど、そういうことはなかったとも言ったことがとても印象に残っています。 「あなたは変えられる」「あなたには力がある」ということを伝えずに、「選挙に行きましょう」と呼びかけられても行くわけがないですよね。
 いま、アメリカ大統領選挙の予備選挙に出ているバーニー・サンダースさんが有権者に「あなたが今、ここにいることに価値があるんだ」とスピーチしていました。 とても素晴らしいと思ったんです。自分が存在することの価値を 認める発言ができる政治家は日本にどれほどいるでしょうか。
 子連れでデモに行くと「子どもを洗脳している」などと言われることがあります。でも、「世の中がこんな状況になっていて、ママはこれだけは嫌だと思うから声を上げに行くんだよ」という姿を見せることは、子どもの成長にとってプラスの面があると思います。 人が悩みながらも行動する姿を見ていなければ、突然、選挙権を手に入れても、どうしたらいいのかわからなくなってしまいますから。
 私にとって、子どもを通してつながったママたちとの関係は、とても楽しいものです。このつなが りを大事にしながら、これからも活動していきたいと思っています。
 
(まとめ:濱田すみれ/アジア女性資料センター)

●西郷南海子さんのインタビュー記事掲載「女たちの21世紀」は下記からご注文いただけます。
「女たちの21世紀」No.86【特集】フェミニスト視点で見る選挙の争点

 2016年6月6日、「『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』にだまされたくない人のためのおしゃべりカフェ」を開催しました。(イベントの詳細はこちら

 改憲派が女性を対象にした勉強会で使用しているブックレット『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(明成社)について、この本の内容と出版された意図や背景に詳しい山口智美さん(モンタナ州立大学)、能川元一さん(大学非常勤講師)、打越さく良さん(弁護士、夫婦別姓訴訟弁護団事務局長)に、ジェンダー平等の視点から、とくに「家族」にかかわる憲法24条を中心にお話しいただきました。当日の様子をご報告します。

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 冒頭では、DVD「世界は変わった 日本の憲法は?~憲法改正の国民的議論を~」(監修:櫻井よしこ、百地章、ナレーション:津川雅彦、制作総指揮:百田尚樹)の一部を上映しました。これは日本会議系団体である「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表:櫻井よしこ、田久保忠衛、三好達)が制作したDVDです。「上映協力金」を支払えば、憲法改正について語り合うために各地で上映をして良いということだったので、この日は「ぜひ上映に協力して語り合いたい」と、山口さんからご紹介いただきました。

 「今、日本は戦後70年、最大の危機を迎えています」とはじまるこのDVDですが、「日米安保条約の下のみせかけだけの平和の夢」「中国は覇権主義をむき出しにしている」「北朝鮮は日本をいつでも攻撃できるミサイル基地を国内のいたるところにつくっている」「戦後最大の危機に日本国憲法は日本を守るどころか、逆に日本を滅ぼしかねない危険までもっている」「日本を狙う国にとって都合のいい憲法」というように、日本の「危機」を強調し、改憲が必要だと訴える内容です。

 DVDの「家族」の章では、百地章さんが登場し、アニメ「サザエさん」について、「サザエさん一家の3世代7人の大家族が昔の日本ではどこでも見られた風景で、サザエさん一家の日常生活を見ると誰もがほっとするのが人気の理由だ」と話していました。「人間は一人では生きていない」「災害では心細い思いをする」というナレーションのあとに「家族の絆が大事」と続きます。

 全体としては、GHQに日本国憲法を押し付けられたから、日本国民独自の憲法が必要と訴える内容。最後は着物姿の櫻井よしこさんが登場して、日本国憲法を「借り物の衣装」と呼び、「みなさんと一緒に本当の日本の姿を取り戻したい」と呼びかけていました。

 以下、お話のまとめです。

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山口智美さん

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 このDVDと『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』はかなり共通する内容。違いはDVDでは、はじめに憲法9条、そのあと緊急事態条項について解説しているところ。10分のダイジェスト版では「家族」について取り上げていないが、『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』では、最初に緊急事態条項、その次に「家族」(24条)が出てきて、最後に9条となる。DVDのほうは支持者向けに作られているという印象を持った。

 『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』の背景と、実際にどのようにこの本が運動に使われているか簡単に解説したい。

 この本を出しているのは日本会議に関する書籍を多く出している出版社。この本の監修を務めたのは百地章さんだが、書いたのは「編集協力」として掲載されている女性団体の女性たちだそうだ。
 
 『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』本の出版社の社員でイラストも担当した諌山仁美さんは「ごく普通の一般人とりわけ女性にはまだまだ憲法を改正する意味が伝わっていないのが現状です」と言い、だからこの本をつくったと話している。一人で数十冊、団体で数千冊を購入しているケースもあるそうで、配布したり、勉強会で使用しているようだ。
 
 なぜ女性をターゲットにしているのか。改憲には女性票が必要なことは明らか。しかし、憲法は女性たちには難しいというイメージがある。だから女性に「わかりやすく」教えようと考えているから。この本は、このカフェに来れば男性のマスターがわかりやすく憲法について教えてくれるという、女性を馬鹿にした設定。日本会議や、日本女性の会は女性を対象に憲法に関する学習会を全国各地で開いている。「日本女性の会」は日本会議の女性部で、男女共同参画へのバックラッシュ最盛期の2001年につくられた団体。
 
 こうした団体が『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』 を、憲法勉強会のテキストとして使っている。熊本大学の高原朗子さん(教育心理学)という教授がいるが、この女性が全国各地を回って100回以上の改憲についての講演をしている。先日、和歌山で行った集会のタイトルは「憲法ってなに? 平和について考えよう」という、憲法改悪に反対する人たちがつけてもおかしくないようなタイトル。日本会議の支持者ではない層の女性たちを呼び込もうとしていることがわかる。日本会議の機関紙にも「憲法おしゃべりカフェ」に関するコーナーが設けられるなど、女性をターゲットにした運動を積極的に展開している。
 
 改憲派にとっての家族というものは「縦の関係」に力を入れているということが特徴だと思う。自民党改憲草案にも反映されている。草案24条の3項には、縦の関係を想起させる言葉がたくさん入っている。

能川元一さん

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 憲法24条関連を見てみたい。先ほどのDVDでも「家族保護条項」について扱っていた。国連の人権規約や他国の憲法を引き合いに出して、日本の憲法24条には「家族の保護をうたった条項はない」として問題にしている。

 「家族の保護」と聞くと悪いことではないような気がするが、具体的に「家族保護条項」を盛り込んだ場合に国は何をするのかを考える必要がある。「家族の保護を義務付ける」という条項が入れば、国家が家族を保護する義務を負うことになる。例えば、老老介護で共倒れになろうとしている家庭や、障害をもった子どもを育てながら年老いてきて自分の死後のことを心配している親、またはシングルマザーの家庭などのために何かしてくれるだろうと考えるだろう。しかし、この本をつくった人たちには、そのような家族のために何かしようとする視点はない。なぜそういえるのか。この本についていた「特別マンガ付録」では、他国の家族保護条項を紹介した後、おじいさんが孫を抱きあげて「国が家族を保護する姿勢を打ち出してくれれば安心」と言う場面がある。しかし、その2つ後のコマでおじいさんは「いくら世の中が豊かで便利になろうと、やはり最後に頼れるのは『家族の絆』じゃ!」と言う。国が家族を保護してくれれば安心といいながら、頼れるのは「家族の絆」というのはシナリオとして成立していない。 どのようなカラクリなのか。

 日本会議系のイデオローグの一人である高橋史朗さんの著作で「家族保護条項」に関連する記述を紹介したい。家族社会学の研究者である加藤彰彦さん(明治大学)は、政府が進める「一億総活躍」政策に関する意見聴取会などに参加して、少子化克服のために三世帯住宅を推進することを提言している研究者だが、彼は憲法24条の改憲試案として「家族は次世代育成のための自律的な基礎単位として、社会的、法的及び経済的保護を受ける権利を有する」と提言している。高橋史郎さんはこの「自律的」という部分について「『自律』という『自助』」という驚くべき解釈を提示している。しかし、そもそも「自律」としての「自助」というのは意味が通らないもの。つまり、彼はautonomyとしての「自律」をindependenceという意味の「自立」とすり替えているのではないか。そのように読むと意味が通る。しかし、音が同じだからといって意味をすり替えてしまうのは大変な問題だ。しかし、「自立」なくして「自律」なしのような発想は日本の保守派のなかでは特異なものではないと思う。

 具体例として、兵庫県小野市では生活保護受給者がパチンコをやっているところを見つけたら市民に通報する義務を課す条例ができたことがある。大分県の別府市と中津市では、生活保護受給者がパチンコをしていたら保護を減額するという行政処分を行っていた。大阪市では生活保護の一部をプリペイドカードで支給するというモデル事業が行なわれた。これらは、自分の稼ぎで暮らしていない者は金の使い方に口を出されても文句を言えないという発想だ。つまり、「自立」はないから「自律」は認めないという発想。

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 このブックレットの13条では、かつて子ども権利条約に関して国連でスピーチを行った高校生が、国連の委員にたしなめられたというエピソードを紹介している。これは1998年に確認されているデマだ。しかしこの本では女性たちが「自分で稼いで食べているわけでもない子どもに下手に権利なんて覚えさせてはだめよ」と言う。つまり自分で稼いでいない「自立」ないものには「自律」を認めないという発想だ。本来概念として「自立」と「自律」は全く異なるものなのに、あたかも「自立」が「自律」の前提であるかのような発想は相当広くこの社会で共有されているのではないか。「自律」という聞こえの良い言葉を使って憲法24条が変えられてしまった場合、懸念するべきなのは社会保障の支出を減らしたいという政府の意向と結果的に合致するということ。根底にあるイデオロギーは違っていても結果としては一緒になってしまう。

 憲法24条が変われば、家庭でシャドーワークを担っている女性たちにとっては負担が更に増えるということになる。また、24条だけではなく25条の生存権までも影響をしてくる可能性がある。

 他にも、このブックレットでは「今の日本はシングルマザーなど片親世帯への支援が家族をもっている人たちへの支援に比べて多いですよね」と出てくる。事実ではないし、シングルマザーの世帯は「家族をもっている人」には入っていない。差別的な表現もかなり出てくる。


打越さく良さん

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 2015年12月、最高裁大法廷では夫婦別姓訴訟について驚きの判決が出た。それでも15人中5人の裁判官(うち女性裁判官3人全員)が夫婦同姓しか認めないという民法750条は憲法24条に違反すると判断した。これまで一部の研究者しか憲法24条について注目してこなかった。護憲運動でも、9条や緊急事態条項に関心が集まっているのではないか。改憲側がかなり熱意を持って変えようとしている24条について、関心が薄いというのは悲しい。

 夫婦別姓訴訟では24条について裁判の規範性があり、立法裁量を画するものであるということが認められた。これからもっと研究者のみなさんに議論を深めてもらいたい。

 24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」となっているが、自民党草案では、2項に下がった上、「両性の合意のみ」の「のみ」という部分が消えている。当事者の合意だけでは婚姻できず、なにか別の制限が追加されるということだろうか。この1項があることで、婚姻の自由や「家制度」の廃止を導くことができる。2項は国家に対する立法義務や立法原則として個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて婚姻槍婚その他家族に関する法律が制定されることを定めている。

 個人の尊重については13条、法の下の平等については14条がすでにあるが、24条は外部から見えにくい家族内での個人の尊厳と両性の本質的平等を掲げたという大きな意味がある。14条は公的領域における性差別を禁止することだが、24条は外部から見えない私的領域における平等を掲げた。これにより、家族の構成員、とくに女性に対して抑圧的な装置であった「家」を廃止できた。

 自民党草案を支持する改憲派は、「家族の絆が薄くなっている」というが、虐待や暴力のケースを扱っている弁護士としては、むしろ家族内における平等が実現されておらず個人が尊重されていないことが原因となっていると思う。

 家族で助け合うことが国民の義務とされてしまった場合、支配や暴力、不平等は解消されることなく、反対にそれらを維持する方向に進むことになるという危機感がある。すでに民法752条で規定されている扶養義務を憲法に盛り込むとしたら、社会保障を後退させることになる。「自己責任」という言葉が安易に使われるような社会では、こうした問題だけが助長されていくだろう。「輝く女性」などという政策を推進しているが、こうなってくると「ますます輝けない」と思わざるを得ない。

 このブックレットには婚外子に対する露骨な差別がある。婚外子への相続に関する法律については「本妻の子」「愛人の子」などと時代錯誤の言葉を使って批判する。「不倫」相手の子どもが財産を要求してきたら「そもそも結婚している意味がなくなっちゃうじゃないの」という台詞があるが、よく意味がわからない。なぜ登場人物すべてが婚姻関係にある側に同一化しているのかも疑問。多様な家族を認めるのではなく「こういう家族でなければ差別してやれ!」という意欲があるように受け取れてしまう内容だ。

 また、この本ではスウェーデンのことを非常に強く批判していることも気になった。スウェーデン大使館にこれでいいのか聞きたいほど。「老人ホームの職員が老人に暴行したりする国」と書いてあるのが、日本でも似たような事件があったのではなかったか。「スウェーデンだけが自由に選択できる夫婦別姓を世界で唯一採用している国」とも書いてあるが、むしろ、法律で夫婦同姓しか認めない国は唯一日本だけであることを政府も認めている。疑問に思う点が多すぎる。

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 後半は会場との意見交換でした。「常識的に考えれば間違っているとわかることも、情報に混線があれば、そうなのかも!と納得してしまう人がいることが不安」「介護の社会化のためにできた介護保険だが、いまではすでに地域のボランティア的なつながりを頼りにしていたりする。24条が変わっていなくてもすでに家族や地域に投げ返す動きはあると思う」「女性たちが主体となっているように見えるが本当に女性の手によるものなのか疑問がある」といった発言を会場からいただきました。

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 また、日本の右派の世界観は「GHQによる戦後改革が諸悪の根源」という発想で全てつながっているという解説の際に、最近の右派論壇がしきりに言っている「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(英語:War Guilt Information Program、略称:WGIP)」についても話題になりました。戦後、日本人に罪責感を植えつけるためのGHQによる洗脳プログラムと右派が呼ぶこのWGIPですが、参加者のなかにもとても詳しい人がいて、私たちの想像を遥かに超える内容に衝撃を受けたのでした。

ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

 2016年4月22日、渋谷区女性センター・アイリスで、連続セミナー「イスラーム世界で生きる女性たちと問われる私たちの意識」の第1回を開催しました。(詳細はこちら

 第1回の講師は、国際看護師の国井真波さんでした。

 国井さんは大学を卒業してから看護専門学校で看護師免許を取得。その後、大学院修士課程で助産学も学びました。

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(国井真波さん)

 シリアの内戦が悪化してきた2012年、JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)から要請を受け、妊産婦支援のためイラク行きを決意します。2013年にヨルダンのアンマンとイラクのアルビルで都市難民となっている妊産婦への支援を開始。家庭訪問をしながら体調確認とニーズの把握を主に行いました。2014年、アルビル郊外にできたダクシャクラン難民キャンプでシリア難民の妊産婦支援を開始します。今回のセミナーでは、シリア難民キャンプでの妊産婦支援の経験についてお話を聞きました。

(※以下、国井さんのお話のまとめです。)

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 2013年、都市難民となった妊産婦への聞き取りの結果、オムツやミルクの不足、そしてシリアにいた頃は受けられていた妊婦検診が受けられないという大きな問題があることがわかった。妊婦検診は胎児の状況や自分自身の体調管理をするためにとても大切。しかし、難民となってしまいお金がないため行けないという状況だった。検診自体は無料だが、検診を受けに行くための移動費がない。また女性は一人で車に乗って出かけることが難しいので夫と一緒に行くことになるが、夫は長時間働きに出ていて検診に連れて行ける時間がないという問題もあった。その頃、JIM-NETでは車代を出す支援や検診に同行する支援もしていた。

 2014年からはじまったダクシャクラン難民キャンプでは、主に2つの情報提供の支援に携わった。まず、アラビア語で『妊娠中の過ごし方』という妊婦向け冊子の作成をした。現地に派遣されている日本のプロジェクトマネージャーとイラク人スタッフと共に作成した。キャンプでは妊婦検診を受けられないため早産や流産が結構あった。また出産と同時に母親が死んでしまうケースも。母子共に健康な出産をしてもらうための冊子にした。1000部作って無料で配布している。

 もう一つの支援は避妊セミナーの開催。キャンプの看護師から「難民キャンプ内で避妊がされていないため、家族計画のセミナーをして欲しい」という要請を受けたことがきっかけだった。キャンプ内のクリニックで手に入る避妊具・避妊薬を調べたところ、男性用と女性用のコンドームやピル、IUDなど無料で手に入るものが十分にあった。モノはあるのに避妊ができないのは、そこにあるという情報がいきわたっていないことや、もらいに行き難い雰囲気、そして使用方法がわからないことが原因だと考えて、セミナーを開催した。どこまで性教育をやっていいのかわからなかったため、現地の看護師や通訳のイラク人女性に相談しながらセミナーの内容を決めた。50人くらい来てもらえればいいと思っていたが、100人以上となった。


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 セミナーを開催するにあたって理解してもらえたか確認するためにアンケートをとった。アンケートでは、ピルについては知っているが、コンドームの使い方を知らない人が多くいた。また、無料の避妊具を使っていない理由として、無料で手に入るものがあると知らなかったからという人が多く、情報を必要としているがなかなかアクセスできないということを感じた。

 セミナー後には個別の質問が多くあった。個別の質問に対しては大きなセミナーでは対応できないと考え、小さいグループでのセミナーや家庭訪問を増やすことにした。2014年6月からは、10代のグループ、妊産婦グループ、未婚女性グループなどに分けて、10人前後の小さなセミナーを開催した。これも避妊に関する情報共有が重要な目的だったが、避妊をテーマとしたセミナーだと女性たちが参加しにくいので、「自分のからだを知ろう」というタイトルにした。また参加者にはちょっとしたプレゼントも用意。鉄分の多い野菜やキャンプではなかなか手に入らない果物、赤ちゃんのいる女性にはオムツなどをお土産にした。1時間程度のセミナーを1日2~3回繰り返し、毎回盛況。センシティブな話題なので、完全に女性だけの空間でセミナーをしている。

 毎回のセミナーで私が必ず伝えたいと思っていたのは「女性はいつ、何人子どもを産むかを自分たちで決める権利がある」ということ。キャンプには望まない妊娠をしている女性もいる。個別訪問では、これ以上育てられないが夫が避妊に協力してくれないという話を聞いた。避妊は膣外射精でいいと思っている女性たちが多かったことに驚いた。その後のセミナーでは、避妊とはなにかとか、科学的に私たちはどういう過程で妊娠するのかというところから話をするようにした。身体を大事にするために基礎体温をつける習慣をつけようという話もしようとしたけれど、それはなかなか難しいと現地のスタッフに言われたので、かなり原始的な方法だけれど基礎体温がわかる方法もあるので、それをお伝えした。

 PMSについては多くの女性たちが悩んでいた。生理の前に頭が痛くなるなど、さまざまな症状があった。ほとんどの女性たちはPMSのときにはハーブティーを飲むと話していた。シリアにいたときからそうしているという。

 活動に継続的に関わっていると女性たちの抱えている問題が変わってくることを感じる。最近、避妊セミナーの最後に「子どもをつくりたいがどうしたらいいか」という質問が出てくるようになった。シリアにいたときは不妊治療をしていたが、イラクに難民として来てから治療が中断してしまったとか、生理が月に2度以上きたり、半年こなかったりという月経不順についても質問がされるようになっている。習慣性流産の女性も何人かいる。なかには既に3回流産をしていて、次にまた流産したら離婚をされてしまうと泣く女性もいた。子どもが産めないために離婚される女性は多くいる。それまでは避妊に焦点をあててセミナーを開催していたが、家庭訪問を通して、子どもを産みたいけど産めない女性もたくさんいることがわかった。そして、ISに捕らえられて、性器に拷問を受けたという女性もいた。彼女から「私は妊娠できるでしょうか」と聞かれたが、何と答えていいかわからなかった。「大丈夫だよ」と励ますことしかできなかった。彼女はよく相談をしてくれたと思う。なかなか表には出てこないが、他にも同様の被害を受けている女性はたくさんいるのではないか。

 生まれた子どもの育て方に悩んでいる女性たちもいた。先天性疾患を持って生まれてくる子どもたちもいるし、体重が増えない子どももいた。家庭訪問で会った女性は子どもの体重が増えないことで悩んでいた。彼女にとって初めての子どもだったが、親しい友達や家族はみんなシリアにいて、子どもをどう育てるのか、だれにも相談することができなった。チームで離乳食に関するアドバイスをしていたら、ようやく体重が増え始めた。お金がないため子どもたちにクッキーやケーキばかり食べさせている女性もいた。また、粉ミルクの缶にはミルクの作り方がアラビア語で書いてあるが、文字を読めなかったり、書いてあることが理解できない女性もいる。ミルクの作り方のセミナーをしたこともあった。


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 キャンプができた2013年、難民としてキャンプにいる7000~8000人のうち妊婦さんは250人程度いた。キャンプ内にはクリニックもあるが、正確な統計をとることが難しい。いま、妊婦さんは約500人いるといわれているが、医療従事者が足りない。

 難民キャンプで私の支援は避妊セミナーから始まったが、さまざまな他の課題も見えてきている。2013年からシリア難民の支援に関わって、お金や食べ物はもちろん必要なのだが、情報も必要としていることがわかった。情報にアクセスできない、情報にどうアクセスしたらいいかわからない女性たちがいる。どうしたらいいかわからないため、結局シリアに戻ってしまう女性たちもいた。モノの支援も大事だが、適切な情報提供の支援も重要。私は看護師として情報発信の部分で今後も女性や赤ちゃんたちに関わっていきたいと思っている。

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 連続セミナー「イスラーム世界で生きる女性たちと問われる私たちの意識」の第2回は、講師に清末愛砂さん(室蘭工業大学大学院准教授)を迎えて2016年6月17日(金)に開催します。詳細は詳細はこちらをご覧ください。第2回もたくさんのご参加をお待ちしています。

 ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!


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