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南アフリカらしい時間南アフリカらしい時間
(2010/05)
植田 智加子

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ネルソン・マンデラ氏が来日した際、鍼治療をしたことがきっかけで南アフリカで暮らすようになり、そこでシングルマザーとなった著者が、毎日の生活の中で出会った人々とのやりとりや、マンデラ氏の治療に通う日々を綴ったエッセイである。
 本書で描かれる南アフリカの人々は、マンデラ氏はもちろんのこと、どの人にも人を惹きつけてやまない魅力がある。
 「息子のきょうだいたち」「ラマダンが済んだら」に登場するシャイーダは、植田さんの子どもの父親の最初の妻である。植田さんが子どもを産むと、「子どもたち同士がきょうだいということは、私たちも家族なのよ」とすぐに援助の手を差し伸べる。そして、普段はおくびにも出さない、反アパルトヘイトの闘士としての姿を、何気ない一言に垣間見せてくれる。
 「服を買わない生き方」のKは植田さんの友人の中では一番の美人である。化粧はまったくせず服装もかまわない。たまにはきれいにしてみたいと思わないかと問う植田さんに「この国で何が起きているかを知ってからは、服を買いたいなんて気持ち、なくなっちゃった」。
 「無口な職人たち」のアフリカ人職人がマンデラが解放された日のことを語るくだり、「……あの感動を味わうためだったら、あと何時間立っていてもよかった。夢を見ているようだった……」は何度読んでも、まるでその場に居合わせたかのような感動をもたらしてくれる。
 そして約7年間の出張治療用ノートが元になっているという第2部「マンデラの家」。マンデラ氏の自伝『自由への長い道』も読んだし、映画『インビクタス』も観た。どちらも、マンデラ氏の魅力を十二分に描いていておもしろく優れた作品だと思う。しかし、鍼灸師として身近に接していた植田さんが描くマンデラ氏は、また違う魅力をもって読者を惹きつける。マンデラという偉大な人物の人となりを伝える優れた記録でもあると思う。こんな貴重な記録を読める幸せすら感じる。
 本書はもちろん南アフリカの負の部分も描いている。それでも、植田さんがシンプルな筆致で描きだす人々に感じるのは、清々しさであり、静かな強さである。彼らが、たとえどんな過酷な状況にあっても、人生を心の底から楽しんでいるんだなということが文章のすみずみから伝わってきて、生きることへの前向きな気持ちがわいてくる。(萬まきこ)
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